2022年夏、信越トレイルをスルーハイクした
- 前泊と予備日を入れて11日間の日程
- 総歩行距離: 129km、合計時間: 68時間5分、総上昇量: 7356m、総下降量: 6934m
- 雨の多いトレイル
- 「ツメでひっかいたような一本のトレイル」は予想以上に移動に苦労もあった
- Base Weight: 13.5kg
- 今後、数回に分けて各セクションをレポートする
歩くのが好き
私は歩くことが好きだ.趣味と言っても良いかもしれない.日常生活の中でも、ちょっとした距離を歩く事を好むが、特に人の少ない自然の中を歩くのがとても良い.国内だと、人の少ない自然の中として山岳方面に足が向くことになる.山登り中心というわけではないが、あまり人気がない低山や里山を歩くことが多い.街中では、特に何もないところが良い.「無」の状態で歩いていることも多いので、車や人との接触がない方が良い.地形的にも安全なところをひたすら歩く.
信越トレイル
信越トレイルは、長野県北部と新潟県に接する関田山脈を中心とした約110kmの日本有数のロングトレイルである.斑尾山を起点として、鍋倉山、関田山脈をとおり天水山、森宮野原駅までの山岳ステージを主とする前半部分(約80km)は2008年に開通している.また、森宮野原駅から、結東、小赤沢などの里をとおり苗場山山頂に至る後半部分(約40km)は2021年秋に開通したばかりだ.私は2022年の夏、延べ11日間で信越トレイルをスルーハイクした.Garminのログによると、総歩行距離: 129km、合計時間: 68時間5分、総上昇量: 7356m、総下降量: 6934mとなっている.

信越トレイルの起点・終点は、西が斑尾山頂、東が苗場山山頂である.この記事では、私が歩いた斑尾山頂から東に向かうEAST Bound(EB)を前提として”前半”、”後半”などの記載をしているが、苗場山頂から西へ向かうWEST Bound(WB)を歩くハイカーもいる.実際に歩いた日数は9日間で、斑尾入りに1日、予備日を1日設けた.前半の5日間はテント泊、後半4日間は宿・山小屋泊とした.最終日(Day 10)は、下山後そのまま帰途についた.
トレイルの概略
前半山岳ステージの中心となる関田山脈は豪雪地帯として知られているが、標高1000mを少し超える山々が連なっており、真夏の低山としては普通に暑い.日が暮れてしまえばテントサイトは過ごしやすかったが、8月だと日中は30℃を越えることもあった.10日間を通して、信越トレイルハイカーに一人も出会わなかったので、真夏に歩く人は極端に少ないと思われる.雪の影響もあり、トレッキングシーズンは6月~11月初旬となっている.
信越トレイルは、その理念として生態系の保全を掲げており、人力による「ツメでひっかいたような一本のトレイル」として作られている.シーズンを通してボランティアスタッフの方々が保守・整備をしてくれているものの、歩く次期によってはヤブでトレイルを見失ったり、行く手をブナの枝に阻まれることもしばしばある.ミドルサイズ以上のバックパックを持っていく場合には、若干行動を阻害される場合があるので注意する.(私の65Lのバックパックは、枝に何度も引っかけて穴があいてしまった)基本的には、里山の稜線を歩いているので、登山としての難易度は低いが、丸一日以上人と会わないこともあるため、必要十分な危機管理をした方が良い.展望が開けた場所に出ると、5km程度先にはっきりと集落が見える程度の距離感だが、全ルートの何割かは携帯電話網から外れている.
ローインパクトの開発のみを行っているトレイルなので、休憩場所の選定にも工夫が必要となる.ベンチや東屋など、明確な休憩場所は全線をとおしても数カ所のみとなる.
先ほど少しふれたが、トレイルは基本的にボランティアスタッフの方々により整備されている.トレイルを歩く場合は、できれば「信越トレイル整備協力金」に協力して頂きたい.
トイレと水場
テントサイトにはトイレが完備されているが、トレイル上ほとんどトイレを通らない.ガイドブックには”ハイキング中のトイレは「沢」「テントサイト」「トレイル」から60m以上離れた場所で”との記載があるが、ほぼ無理なので携帯トイレを携行するべきである.また、テントサイト以外の水場も少ないので、夏場は注意が必要となる.
天候
計画時点では、私が歩いた日程は過去5年間で雨天約15%という統計データだったが、はっきり言って天気には恵まれなかった.まったく雨に降られなかった日は、全日程の内4日間のみ.そのうち、かろうじて晴天と入れるのは半分の2日間.ほぼ、1日中雨に降られた日は2日間.後は曇り時々雨だったり、夕立に降られたりといった天気だった.もっとも、日中の気温が高かったせいもあり、後からペースを見直してみると、雨の日の方が良いペースで歩けている.天候以外の原因もあるのだが、雨が続き疲れがたまってきた4日目は午前中は快晴で昼頃にはかなり気温が上がっており、結果として体調不良で途中エスケープせざる終えない事もあった.当たり前だが、天候が落ち着いている季節に歩くのがお勧めだ.
ここ数年ニュースにもなっていたが、蚊が非常に少なかった.歩いているときも、テントサイトでもほとんど蚊の襲来を受けなかったのでリラックスできたのはありがたかった.どうも気温が高すぎることが原因らしい?
計画と概要
全体日程(2022年8月)
日程全体は以下の通り、カッコ内はガイドブックによる計画距離である.
- Day 00 : 長野入り(飯山)
- Day 01 : 斑尾山登山口 → 赤池テントサイト [8.5km +3.5km]
- Day 02 : 赤池テントサイト → 桂池テントサイト [21km]
- Day 03 : 桂池テントサイト → 光ヶ原キャンプ場 [14km]
- Day 04 : 光ヶ原キャンプ場 → 野々海高原テントサイト [18km]
- Day 05 : 野々海高原テントサイト → 森宮野原駅 [16km]
- Day 06 : [予備日]
- Day 07 : 森宮野原駅 → 結東(かたくりの宿) [17.2km]
- Day 08 : 結東 → 小赤沢 (小赤沢温泉) [9.7km]
- Day 09 : 小赤沢 → 苗場山 (ヒュッテ泊) [8.5km]
- Day 10 : 苗場山 → 赦川登山口 [6.7km]
計画の立て方
信越トレイルを歩くための情報は、公式サイトが非常に充実している(https://www.s-trail.net).基本情報は、ほぼこれだけで問題ない.2022年夏時点では、前年(2021年)秋に開通した後半部分の情報が若干不足気味ではあったが、特に問題はなかった.また、トレイル情報も逐次更新されているので出発前に必ず確認する.公式サイトには、トレイルの詳細情報はもちろん、アクセス情報、宿泊情報、交通機関の情報などトレイルを歩くことに必要となるものはほぼ揃っている.さらに、信越トレイルの概念や、歴史、信越トレイルクラブの活動状況など興味深い読み物も多いので、ぜひ目を通して頂きたい.数あるロングトレイルの中でも情報の充実度はピカイチだと思う.
公式マップは入手した方が良い.1/25000の4枚組となっており公式WEBストアで入手することができる.細かい情報も記載されているし、毎日の移動距離が比較的長いため、行程全体を見通すのに便利である.計画を立てる場合には、前半部分(Map 1-3)と後半部分(Map 4)はまったく性格が異なるステージだと考えた方が良い.ひとまず、概要を知りたい場合にはpdfのガイドマップを眺めてみるのがお勧めである.
公式マップとコンパスはもちろん携行したが、行動時の確認は主にGarmine Trex 30xJ を使った.公式サイトでトレイルのGPXデータが配布されているので、あらかじめコピーしておきルートの参考にした.また、バックアップとしてYAMAPで該当地域の地図をダウンロードしておいた.
普段、登山計画は、山と自然ネットワーク「コンパス」を利用させて頂いてる.今回も届けを出したが、後半の8-9セクションは山岳エリアではないためか詳細ルートを作ることはできなかった.
前半(斑尾山~森宮野原駅:山岳ステージ)
信越トレイル前半は関田山脈を中心に、長野県と新潟県の県境を縦走していく山岳ステージだ.途中、多くの峠で一般車道と交差しており、移動手段が確保できれば峠ごとに区切って歩くことも可能である.公式サイトでは、峠や集落ごとに10km前後で区切り、7つのセクションとしている.いろいろな情報を総合的に見ると、7セクションを5-7日間で歩くのが標準となっているようだ.テント泊をしない場合には,各峠ごとに送迎をしてくれる宿に泊まることで効率的にトレイルを歩くことができる.車の送迎付き宿泊をパッケージした、ガイド付き6日間のパッケージツアー(前半スルーハイク)なども企画されている.山系SNS情報では、2日間で踏破する(トレラン系?)猛者もいるようだ.また、ウルトラライト系ハイカーだと1-2日短縮して、3-4日で歩いているログも見つけられる.
私の中でも信越トレイルといえば、この前半部分の印象が強い.5日間のトレイルそれぞれが異なる顔を持ち、どっぷりと一日中自然の中に浸り、考え方が非常にシンプルになってくる.細いトレイルを通過して、ラストに天水山から森宮野原へ一気に下っていくと、いずれ視界が開けて前半ゴールの森宮野原に降りたつ.大きな充実感を感じる瞬間だ.全セクション・スルーハイクにこだわりがない場合は、この前半部を歩くことをお勧めする.時間がとれない場合は、関田峠、または牧峠あたりから東へセクション5,6,7を歩くことをお勧めする.日帰りでも、伏野峠からセクション6-7を歩けば、かなり楽しむことができると思う.また、ブナの森を中心として信越トレイルの核心部を一つだけ歩くならば、セクション4になるだろう.








テント泊スルーハイク
標準的なキャンプ泊縦走をする場合には、トレイル上のテントサイトの都合上、ほとんどの場合モデルプラン(https://www.s-trail.net/model-course/)の4泊5日で歩くことになるだろう.私のそのように計画した.ただし、トレイルの起点は斑尾山頂なので、初日はスタート地点から斑尾山頂までを歩く必要がある.飯山、斑尾高原からアプローチするプランだと、斑尾登山口チロル(レストランチロル前)付近からのスタートになるだろう.その場合は、トレイル起点まで3.5km程度が追加となる.チロル登山口周辺にはキャンプができる場所があるので、キャンプサイトで前泊をするのも良いが、飯山駅周辺からでもタクシーで6時台に到着できる.水に関しては各テントサイトで補給が可能だが、途中、食料を調達することはできないので、前半テント泊をする場合には日数分の食料(+α)を持っていく必要がある.私の斑尾登山口スタート時のPack Weightは、約20kgだった.
テントサイトについて
赤池、桂池、野々海高原テントサイトは、基本的に信越トレイルハイカー限定のテントサイトである.これに光ヶ原高原を合わせて4カ所のテントサイトを利用することで、前半の森宮野原まで4泊5日のテント泊トレッキングが可能となる.(専用の予約フォーム(https://www.s-trail.net/cms/tent/search.php)から予約する).予約サイトでは、現在の予約状況を見ることができる.私が、計画時点で眺めていたところ、テントサイトを利用するハイカーは、約半数がスルーハイカーらしく、キレイに一日ずつズレた日程でテントサイトが予約されていた.各テントサイトは収容人数が決められており、桂池が5名と最も少ない.そのため、人気のシーズンだと、桂池テントサイトの予約状況をもとに日程を調整することが必要となるかもしれない.幸い(?)に、不人気シーズンに出掛けた私の場合は全てのサイトで出発時点まで予約状況は一人のままであった.各サイトの利用には、利用料または協力金として1000円-2000円必要.
後半(森宮野原~苗場山:里めぐりステージのち登山)
後半の8-10セクションは、前半とはまったく異なり、秋山郷の集落を結ぶ道を中心に歩くことになる.ガイドブックによると「全行程の約半分が舗装路」となっているが、歩いたあと振り返ると、印象的には8割がた舗装路だったと感じられる(感覚的問題).行程上、無理なくキャンプができるのは、セクション8の目的地、結東、かたくりの宿テントサイトのみとなる.トレイルを大きく外れるか、LNTビバーク対応する以外は、残り2泊は宿泊施設に泊まることになるので、私は、後半ステージ全てを宿泊とした.標準的には苗場山頂ヒュッテを含む3泊だが、セクション9は短いので、”工夫(LNTビバークまたは車による送迎)とコンディション次第”では、山頂に泊まらず苗場山を一日で歩ききることも十分可能だと思う.
舗装路が多いため、後半をローカットシューズで歩くハイカーもいるようだったが、私自身は苗場山を考慮して、結局、前半そのままライトアルパインブーツで踏破した.後半は、常に曇り時々雨のような天候だったのでちょうど良かったと思う.晴天が続いたらキツかったかもしれない.
標準的な日程で3泊するならば、キーとなるのは「秋山郷結東温泉かたくりの宿」である.閉校となった校舎をリノベーションした宿泊施設だが、一日の宿泊可能人数が限られており(おそらく8組程度)、週末など混雑する時期だと、特に予約が困難になる.私の計画した日程では、信越トレイル的には全くの不人気シーズンかつ平日であったがこの宿は、秋山郷観光でも人気があるらしく、なかなか予約が取れなかった.結局、全体の日程をかたくりの宿の予約に合わせてシフトする必要があった.これを避ける意味で、かたくりの宿でテント泊を選ぶのもアリだと考える.
セクション8,9は舗装路を歩きつつ、時々、ブナ林のトレイルを交えることになる.一般舗装道路または林道の脇に、突然トレイル入口があるので、見落とさないように注意が必要.
セクション10は、1合目からひたすら上りで踏み跡の少ないトレイルを歩いた後、2000mクラスの登山となり、これまでとはまったく異なる最終日に相応しい印象深いステージとなっている.苗場山頂に宿泊した場合、翌日に赦川登山口へ下山し、越後湯沢へ出るのが標準的だろう.赦川へ下りる登山道は、比較的電波状況が良いので、タクシーを呼ぶことが容易だ.ちなみに、タクシーだと駐車場ではなく和田小屋まで登ってこれるようだ.
後半ステージは、個人的にはなかなかお勧めしにくい.しいて一日だけ歩くなら、セクション9となる.その場合は小赤沢から北上するルート(WB)が良いと思う.中盤ひたすら舗装路を歩くとこになるが,ラストにトレイルの中から、結東の集落が見え隠れする秘境感が楽しめる.歩く時間も比較的短く、その後「かたくりの宿」に泊まれば旅行としても満足できるのではないか.








信越トレイル スルーハイク
2022年夏の信越トレイル・スルーハイク.歩き続けるにつれて高まる高揚感、帰ってきたときにはかなり疲れているにもかかわらず、まだ歩き足りないと感じる不思議.終わってみれば ”わずか10日間” の非日常であった.満足感と物足りなさ.近いうちにまた必ず歩きに行くに違いないという確信.
今後しばらく時間をかけて、各セクションに関した情報も書いていきたいと考える.


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